2.メディア接触の減少

 例えば60〜80年当時の東京を舞台にしたホームドラマを見ると、都電での出勤や八百屋・魚屋・米屋等の業態、下宿や間借・銭湯等の生活基盤がしっかりと描かれている。そうした映像シーンを見たのがきっかけとなり、その時代を体験した年代にとっては自分史の再確認となる。知らない世代にとしても、新しい創作や趣味のチャンスになる。
 これより前の戦後復興期の場合、その時代を生き抜いてきた世代にとっては強烈な個人体験として、知らない世代にとっては平和教育としての体験が恒常化されていることから、日本人の基本的な知識としてDNA化されている可能性が高いだろう。
 ゆえに、当時の空間施設や都市風景のありようやその変遷は、平和を理解しうる参照情報としてインプットされており、東京であろうが地方であろうがローカリティはほとんど存在しないように思える。復興の出発点であった壊滅は、当時の一般的な風景であっただろうから。


 それ以前の時代になると、核家族化が進む中で大正・昭和・平成の三世代間コミュニケーション(明治は遠くなりにけり)はほとんどの家庭で失われているだろうから、当然、映像メディアによって認識が形成される。しかしこの時代を背景とする映像プログラムは、戦争映画を除くと極めて少なく、例えば大正デモクラシー当時の東京の街や風俗そして生活が見て取れるような作品はほとんど作られようとしない。それは、明治時代も同様で、明治維新から終戦までは、現代の映像プログラムはドキュメンタリー番組以外、黄金時代の“日本映画名作劇場”に頼らざるを得ない。

 これが逆転するのが江戸時代であった。江戸時代は映像プログラムの最大のネタ元であり、それはテレビで「時代劇」として、定番化された。人気のある時代小説はテレビ番組化され、視聴率を獲得した。そこには江戸の様々な風景、世俗、風習等が「勧善懲悪」というわかりやすいコンセプトの元に反映されている。撮影場所のほとんどが京都・太秦映画村のセットで都市景観はほとんど考証されず、ストーリー展開のための事実の誇張があっても、大方の日本人にとって長屋住まいとか、お屋敷とか、「火事と喧嘩」等が江戸東京の文化であることの認識形成に寄与したのである。つまり正確ではないが、江戸とはこんな都市だったくらいは、ほとんどの日本人が解説できたのである。このように映像プログラムの露出が江戸への興味・関心を与えるフックであって、インフラだったというのが現実なのである。

 しかし、手元の新聞でテレビ番組欄(テレビ情報誌でも構わない)を見て欲しい。いま、地上波において、時代劇を見つけるのは困難である。実際、この傾向は毎年はっきりしてきており、この2000年4月の改編から、伝統のあるフジテレビもまた時代劇を落としている。よって、地上波で見れば東京圏で時代劇を体験できるのは日中の再放送を加えても極めて限られる状況にある(もちろんファンはCSの日本映画チャネルや時代劇専門チャネルを選択しているだろう)。

 テレビドラマトピックス http://www.asahi-net.or.jp/~RM1Y-FRSK/index.htm

 地上波の主力はニュース、ワイドショー、そしてトレンディドラマである。つまり現在・未来志向であって、トレンドの先取りとそのライフスタイル提案を視聴者は望んでいる。そこに、時代劇は邪魔というわけである。すでに“現代人の時代劇は既に70〜80年代、『太陽にほえろ!』だというテレビ業界人のコメントを見つけることもできる時代なのだ。

■地上波における時代劇(再放送は除く)

 この30年間で時代劇レギュラーは半減。今春はNHKを除くと既に2番組のみで、また視聴率的にも他のジャンルと比較して芳しくないのが実情。

ビデオリサーチ:http://www.videor.co.jp/index.html - top


 *いずれも4月改編時の状況。東京12チャンネルは現在のテレビ東京で表示した他、
  すべて当時の新聞表記による
時期 NHK 日本テレビ TBS フジテレビ テレビ朝日 テレビ東京 合計
1971 男は度胸
(徳川太平記)
春の坂道
めくらのお市 水戸黄門 銭形平次柳生十兵衛女人武蔵 遠山の金さん捕物帳
大忠臣蔵
軍兵衛目安箱
人形左七捕物帖
大江戸捜査網 11
1976 風と雲と虹と 子連れ狼
伝七捕物帖
江戸を斬るU
隠し目付参上
江戸の旋風U
さらば浪人
お耳役秘帳
銭形平次
遠山の金さん
破れ傘刀舟悪人狩り
徳川三国志
必殺仕業人
大江戸捜査網
旗本退屈男
忍法かげろう斬り
青春太閤記
徳川おんな絵巻
18
1981 おんな太閤記
いのち燃ゆ
桃太郎侍 江戸を斬るW 闇を切れ
銭形平次
江戸の用心棒
暴れん坊将軍
鬼平犯科帳
必殺仕舞人
大江戸捜査網
月曜痛快時代劇
切り捨て御免
13
1986 武蔵坊弁慶 長七郎江戸日記 大岡越前   暴れん坊将軍
遠山の金さんU
必殺仕事人
徳川風雲録
1991 太平記
赤頭巾快刀乱麻
長七郎江戸日記 水戸黄門 岡引きどぶ またまた三匹が斬る
暴れん坊将軍
幕府お耳役檜十三郎
あばれ八州御用旅
1996 秀吉夢暦・長崎奉行   水戸黄門 八丁堀捕物ばなし 大江戸弁護人・走る
将軍の隠密!影十八
 
1997 新・半七捕物帖
毛利元就
  水戸黄門 鬼平犯科帳 功名が辻  
1998 物書き同心
いねむり紋蔵
徳川慶喜
  水戸黄門 さらば鬼平犯科帳 影武者徳川家康
金さんVS女ねずみ
 
1999 しくじり鏡三郎
元禄僚乱
  水戸黄門 髪結い伊三次 暴れん坊将軍  
2000 葵・徳川三代
一絃の琴
  水戸黄門    暴れん坊将軍  

関連:「テレ探偵団」 http://www1.freeweb.ne.jp/~ronron/tvguide.html


 このように、メディアを見て直感的・イメージ的・デジタル的に認知を形成する思考体系に慣れた世代に、そのチャンスさえ消失するというのは、何も現実が残っていない江戸を理解しうるには危機ではないだろうか。これが我々の江戸認識の確実な消失という悲観を否定できない背景なのである。

 それでも、東京には皆無となった江戸の遺跡・遺稿・資料等の復元を図り、江戸そして東京までの歴史を認識できるような役割を何とか果たそうと孤軍奮闘する施設空間が実存する。そこで今回は、基本知識が希薄な層に対して、これらの施設がどのような方法でその認識醸成を図ろうとしているのか、その効果は具体的にどう評価し、今後の展開に反映させていきたいのか等を探ってみた。取材を行ったのは江戸東京博物館、深川江戸資料館である。このほか、関連施設として消防記念館、警察博物館のインプレッションもお届けする。

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