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『相互扶助のイノベーション』
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■事例4:岡山県笠岡市 介護船「夢ウエル丸」(2)(概要版)

〜“海と島は宝”、93年に市の自主事業としてスタート 7つの離島、10カ所の拠点を回り介護サービスを提供

◆介護保険制度の開始で数千万円の負担が必要に

島しょ部の住民は、要介護の状態になると陸地の施設のある場所に引っ越す傾向があり、島で生活する高齢者は、介護度が軽くまだ元気な人が多い。夢ウエル丸のデイサービスは、引き続き島で暮らすことができるように、介護予防にフォーカスしたサービスであった。しかし、平成12年(2000年)に介護保険制度が導入されると、夢ウエル丸の笠岡市独自のデイサービスは、実施回数や時間、対象者の要介護認定等の要件から同制度の適用外となってしまう。あくまでも保険であり、適用資格を満たす加入者が指定条件化で利用するのが前提というのだ。

笠岡市は何とか維持できるようにと努力したのだが、介護保険制度への適用は断念する結果となった。それは、介護保険制度の財源からのコスト補?を断念する結果となり、数千万円の予算計上を必要とした。それでもやり続ける。“海や島は宝”なのである。

こうして、介護や必要な人、予防介護が必要な人それぞれのニーズに応じたサービスを提供する方向で、夢ウエル丸の福祉サービスを維持することになった。まず、介護保険サービス的な機能で、要介護認定を受けており、リハビリなどの機能訓練が必要な方に対応したサービスを提供する。そしてまだ元気な人の集いの場、居場所づくりを行い、あわせて安否確認を行う。

夢ウエル丸は笠岡市が保有、運航を旅客船会社に委託している。笠岡港には専用の桟橋が設けられており、一般客が間違うこともない。月曜から金曜まで毎日運航、7つの島、10カ所の拠点を1日1カ所の割合で巡回するが、島から見ると月に2度の運行となる。来航時には地域のボランティアや、婦人会や社会福祉協議会などが対象となる人に声をかけて、夢ウエル丸に集まる。サービスの対象は高齢者と障害者で、自力で来られない人のために、送迎も行う(運航開始時は電気自動車を使っていた)。体操やリハビリ以外にも、カラオケを交えての交流会、栄養指導を兼ねた食事としてお弁当を食べる。参加の有無が安否確認になるのである。

まとめると、デイサービスは以下のプログラムを基本となる。

(1)健康チェック(看護師が血圧測定等を行う)
(2)随時送迎(特浴利用者)、入浴
(3)体操・レクリエーション(リハビリ)
(4)手工芸、マッサージ器等の利用(利用者のコンディションに応じて実施)
(5)配食弁当での食事(自己負担額は400円)


夢ウエル丸の内部・親睦交流室(スタッフルーム側)

夢ウエル丸の内部・特種浴槽と一般浴槽


夢ウエル丸の内部・電動リフト付の階段

運営体制は、運航を委託する船会社のスタッフ3名、リハビリなどデイサービスを担当するスタッフ2名(市内の老人保健施設の専門家)、嘱託ながら唯一の市の職員・中塚俊夫氏が担当する。メンバーは基本的に固定されている。中塚氏は夢ウエル丸で十数年を過ごしており、島の人々とは良好な人間関係を築いているそうだ。中塚氏を中心に島在住のボランティアが連携して送迎を行っている。

夢ウエル丸の利用者は、平成9年度(1997)がピークで、約6,500人/年である。その後、介護保険制度の導入や対象人口の減少などもあって減少傾向にあるが、それでも約4,000人の需要をカバーしている。

◆相互扶助介護への転換

笠岡市は平成18 年(2006年) 3 月に「笠岡市高齢者保健福祉推進計画・介護保険事業計画」《ゲンキプラン21-III》を策定。“街角に笑顔の福祉と介護・手を結ぶ健康のまち笠岡”を基本理念に位置づけた。平成21年(2009年)3月には、高齢者を取り巻く急速な環境の変化に対応、第3期の計画を見直した「第4期笠岡市高齢者保健福祉推進計画・笠岡市介護保険事業計画」《ゲンキプラン21-?》を策定した。そのなかで「高齢者福祉施策の重点課題」の4番目に、島しょ部について触れられている。

同市が取り組んでいるのは、夢ウエル丸で実施しているサービスで、特に介護保険サービスの関連をなんとか各島の陸上部で実施可能にすることである。すなわち、夢ウエル丸型介護から相互扶助介護への転換である。

介護保険制度発足後、10年が経過して、ようやく高島に民間のデイサービス施設がオープンした。このように、民間のサービス進出は、かなりの時間を必要となる。それではどうするか。高齢者の介護に直面している世帯で、介護を担う層が集まってヘルパー等のサポートを受けながらローテーションで介護をこなしていけば、介護の負担を軽減できるようになる。そこで介護をしている人が3人集れば、ひとつの事業として、NPOを発足できるようにした。こうして平成18年(2006年)、笠岡諸島では最大の北木島で、地域起こしのNPO法人「かさおか島づくり海社」が介護事業所として申請、介護を担う層が経営者、運営者として参加したデイサービス事業を平成19年(2007年)にスタートさせた。その後、平成21年(2009年)には同島で2番目の、さらに白石島でも3番目の事業所がオープンした。もちろん介護保険制度にもとづく認定事業所である。住民が事業者となって介護福祉サービスを行うことで、笠岡市は雇用と定着効果の相乗にも期待している。


夢ウエル丸の内部・親睦交流室(甲板側)


島に暮らす子供達が、夢ウエル丸を訪れて作成した壁新聞

ちなみにこのNPO法人は、笠岡諸島への移住事業を先行していた。介護事業に取り組むにあたり、島民にヘルパー2級の資格取得を呼びかけて、それなりの数の有資格者づくりに成功したという。さらに同年に開設した白石島事業所のデイサービスの管理者は、介護施設での業務経験があり、地域の中で福祉に携わりたい希望もあり、縁があって白石島に移住。管理者として事業を立ち上げて、島の住民を雇用してデイサービスを実施している。



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