■エーザイ 内藤記念くすり博物館


6.インプレッション

2)常設展示

 常設展は主に医薬の歴史に沿った時系列でさまざまな資料が展示されている。細い通路を抜けて展示室へ入る。通路には古来より薬として利用されてきた植物などが壁面に美しくレイアウトされていた。よく見ると薬草として有名なゲンノショウコといったものから、アサガオ、ヒガンバナなど、ここに来るまで薬になるとは知らなかった馴染みのある植物に混じって、セミの抜け殻やタツノオトシゴも展示されていた。植物は薬としてわりとすんなりと受け入れられるが、セミの抜け殻となると服用するには勇気が要る。どんな効用があるのか興味深い。

 展示室は壁面をガラスケースの展示スペースとしている。背景を白に統一、装飾は少なく非常にすっきりとシンプルな作りである。
 「健康への祈り」と題したコーナーは、病の原因を精霊や悪魔の仕業と考えた人々が治癒のために神仏に祈りを捧げる際に使用した、様々な道具が展示されている。魔よけの置物、仏像、お札、風車、祇園祭りのちまき、などである。一昔前まではどこの家庭にもあった懐かしい道具である。また、「神農」と呼ばれる古代中国の薬祖神の像や掛け軸もある。頭に短いこぶのような角が生えていて、手に植物を持った老人の姿をしている神農は「野山をかけめぐり草木をなめて、薬になるか毒になるかを人々に教えた」(解説より)、ありがたい神様で、漢方医や薬屋の信仰を集めてきた。

 続いて「生薬」展示コーナーは大小さまざまなガラス瓶が並んでいる。乾燥したもの、ホルマリン等の液体の中に沈んでいるもの、形状的に丸いもの、長細いものなど、どれも生々しい様相を見せている。現代では病院で処方される薬もドラッグストアで買う薬も、原材料がどんなものかまるで見当が付かないものがほとんどだが、少し前まで、薬ははっきりとした原型を持っていたのだと実感できた。

 生薬の見せ方についてだが、中身を見やすくするには丸いガラス瓶ではなく、トレーなどの上に乗せたほうがわかりやすい。だが、個人的には医療用のガラス瓶に入っていることにより薬としてのリアリティが増す、良い"演出"と感じた。
 生薬のコーナーだけでなく、展示は全体的に非常にシンプルである。色を多用することなく、基本的には白地の紙に黒い文字が印刷されているのみ、図解も一つの色で表現されているものが多い。これらは全て学芸員のオリジナル造作である。

 奥に進むと、明治中期の頃の様子を復元した薬屋の店先がある。木造の店舗で柱や壁が黒光りし、大きな看板の金色がよく映える。薬屋の看板には金箔を使った豪華なものが多かったそうで、他に展示してあった看板もその多くが金箔をほどこしてあった。そして金色の看板と同じく目立つのが、軒先に吊された「袋看板」と呼ばれる紙で作られた看板である。高さ90センチもある大きなもので、墨で大きく「薬種」と書かれている。上部がすぼまった台形をしているのは、薬袋をかたどっているためである。この独特の形のため、一目で薬屋だと判別できたという。

 その他、「蘭方医学の伝来」「富山のくすり(配置売薬の歴史)」「薬を作る」「病原菌との戦い」などの展示コーナーが続いた。どれも当時の資料、道具などが並べられた正統的な展示方法である。杉田玄白等の手による、学校で必ず習う「解体新書」の現物や、幕末に書かれた解剖図などを目の当たりにし、また工夫された製薬道具の数々を見ると、長く、大変な苦労の結果、現代の医療、薬学が成り立っていることを実感できる。江戸時代の薬売りを再現した等身大の人形が置かれていたのが数少ないエンターテイメント色のある展示だった。
 2階は常設展示と企画展示がある。まず常設展示を見ていくことにする。

 「大衆薬工業協会加盟各社の製品」コーナーでは、その名の通り、協会に加盟している製薬会社の主な製品がずらりと並べられている。半分程度は薬局の店頭でよく見かける薬や、テレビコマーシャルで見聞きしたことのあるお馴染みの製品であるが、聞いたことも見たこともない社名や製品も多々ある。普段見慣れているはずの薬でも、このような分類・展示の形で見たのはもちろん初めてで、大衆薬の多種多様さ、裾野の広さを再認識することとなった。ちなみに加盟企業は2003年4月1日現在で88社である。

 その他、「江馬蘭斎の薬用風呂」と名付けられた、一人用のサウナのような木製の太い筒であるとか、大正時代の薬箱だとか、学術的なものばかりでなく、生活と結びついた薬に関するありとあらゆる資料が数多く展示されていて、次から次へと興味が尽きることがない。また、「カロリー計算コーナー」や自分の体力などを計測できる「体験・参加コーナー」も用意されていた。




後ろから光を当てて美しくレイアウトした薬の素材たち。
セミの抜け殻も薬である。




簡潔にまとめられた解説


パネル類などを極力排し、資料が引き立つ展示


生薬はガラス瓶に入れて“リアル”に展示


明治中期の頃の様子を復元した薬屋の店先


すっきりシンプルな館内


大衆薬工業協会加盟各社の製品コーナー

江戸時代の薬売りを再現した等身大の人形


「カロリー計算コーナー」「体験・参加コーナー」で多くの人が健康チェック


3)企画展

 2階では企画展も開催されている。我々が伺った際には、「鍼のひびき 灸のぬくもり −癒しの歴史−」が行われていた。(2002年4月27日〜11月24日)
 東洋では鍼や灸を施すことによって、病を癒してきた3000年の歴史があり、人々は傷を負ったり痛みを覚えたときに、本能的にその部位に手を当てて押したり、もんだり、暖めたりしてきた。刺激しているうちに治ったという自然発生的な経験が積み重なり、経穴(ツボ)やそれを伝える経絡(けいらく)の理論が鍼灸学の長い歴史の中で継承されてきたという。長い歴史を持つ鍼灸に関する数々の資料を展示し、鍼灸学を知ってもらうと同時に健康についても見つめ直すきっかけとなることが今回の企画テーマである。
 この企画展示の目玉と言えるのは、大変珍しい「経絡人形」「経絡図」だろう。ツボを学ぶために使われたもので、特に体中に点と点を結ぶ線が走る「経絡人形」は一度見ると忘れられなくなりそうな様相である。
 そしてもう一つ、心を捉えたのは浮世絵である。女性が灸の暑さに耐えて顔をゆがめたり、手ぬぐいを噛んだりしている。浮世絵に描かれている女性は大抵あまり表情を出していないものだが、さすがに灸を据えられている女性は辛そうで、そこが気の毒だがなんともユーモラスでさえある。浮世絵に描かれるほど灸が生活に密着していたと言えるだろう。






体中にツボの点と線が走る経絡人形


灸の暑さに耐える浮世絵の女性たち


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