大分農業文化公園・「パークアルカディア」(1)

広大な景観と子供向け設備の充実で滞在性・娯楽性を強化
「花昆虫館」では一般市民の参加・運営スキームを導入
参加体験チャンスが限られ、農業文化浸透はこれから

2006年1月6日
※書籍「レジャーパークの最新動向2002」(2002年8月発行)の記事を掲載しています


 2001年4月21日に86億円の事業費を投入してオープンした「大分農業文化公園」(大分県速見郡山香町大字日指1-1)は、敷地総面積約120ha(うちダム湖37ha)、東京ドームの約24個分にもなる、わが国でも最大規模の農業公園となった。開園に合わせて、大分空港及び大分自動車を結ぶ有料道路・別府宇佐道路に「大分農業文化公園I.C」が開設され、県内外の広域アクセスも可能になっている。

 危機的な地方財政のなか、この公園を建設した背景には、大分県では“例によって”平松守彦県知事の意向が強く反映されている。県政の中で「新農業プラン21」のなかで知事は、21世紀の農業・農村の時代に向けた政策として「特に都市と農村の交流、農業への理解が必要」であると力説していた。そんなとき、南フランス・モンペリエ市郊外にある「アグロポリス博物館」を訪れたことで意を強くし、同様の施設づくりが始まった。

 公園のコンセプトは、「出会いと収穫の体験フィールド」。豊かな自然と楽しみながら、農業・農村の文化を学習する場を提供することにより、農業・農村に対する理解を深めると共に、新しい農業・農村の発信基地となる場所として位置づけられた。グランドデザインは、“発見”“参加”“癒し”をテーマとするゾーニングで構成される。

 事業体制だが、大分県が施設の建設を行い、県の外郭団体「社団法人大分県農業農村振興公社」へ管理運営を委託。実務は公社の内部組織「大分農業文化公園管理事務所」が担当している。
 2002年4月18日付けの大分合同新聞によると、開園後およそ1年が過ぎた同年3月末までの入場者数は45万4,479人で、目標の40万人を上回っている。県農政企画課が行った当該公園に関するアンケートでは、約7割が「満足」「やや満足」と答え、「また来たい」も約7割となった。来場客には幼児・保育園児連れが多いのが特徴である。
 こうして、初年度(2001年度)の事業収入は3億7千万円の見込みで、人気と認知がこのまま高まっていけば、開園5年以降は入場者数が25万人で安定し、約2億4千万円の収入が確保できると県では試算している。

 農業公園が多数先行する九州において、事業面で順調な滑り出しとなった大分農業公園。それは、他にはない「大規模の」の強みなのか、それとも生活者の支持を集めるようなマーケット・インの施策による結果であろうか?そこで現地を取材し、人気の秘密を探ってみることにした。


1.事業の経緯
 平松大分県知事の強いこだわり


 はじめに、2001年4月21日にオープンしたこの「大分農業文化公園」の、そこまでの経緯、コンセプトメイク等を東禮一郎園長へのインタビューから整理してみる。

○南フランスにある『アグロポリス博物館』が雛形

 公園建設の背景として、平松守彦大分県知事が、南フランス・モンペリエ市(注1)郊外にある『アグロポリス博物館』(http://www.agropolis.fr/)を見学した経験がフックとなった。
 同博物館は、農業の起源と歴史、世界の農業システムなどをテーマに、写真・ビデオ・模型などの視聴覚資材を用いて展示解説を行っている。また、空間的には、教育施設、会議場などとしても利用されている。
 当時、平松知事は県政の中で、「新農業プラン21」に基づき、21世紀の農業・農村の時代に向けた政策を展開しようとしており、アグロポリス博物館の経験がフックとなって、「特に都市と農村の交流、農業への理解が必要であるということから、その拠点となる『アグロポリス博物館』を大分につくろうと考えたのが発端」である。
 それから表1のような展開で計画が進められた。施設の方向性については、本誌でも取り上げている「プロダクト一体型の「神戸市立農業公園・神戸ワイン城」を視察するなどして熟成を図ったという。
 しかし、計画時の1991年まではバブル経済の絶頂期で、平松知事の「どこにもないものを」とする熱い希望から、計画にはあらゆる施設機能を盛り込んだ。それが、不況による経済情勢の変化で、部分的な変更を多々余儀なくされ、当初の考え方と完成型では若干の差異が出てしまったと東園長は悔やんでおられた。

表1 設立までの沿革

1990年6月
(平成2年)

新農業プラン21の中に当施設が位置づけられる

1991年12月
(平成3年)

県内12カ所の中から現在地を選定

1993年
(平成5年)

基本設計

1995年
(平成7年)

着工

2001年4月21日
(平成13年)

開園


 また、オープン直前には、国際日本文化研究センターの川勝平太教授が訪れ、「21世紀に実現するモデル公園となることを期待する」と賞賛している。さらに川勝教授の提案によって、当初予定していた「エコパーク」という愛称から「パークアルカディア」へ変更したという逸話もある。















アグロポリス博物館」のホームページより、「世界の食卓」展示の説明。同館ではこの他に「農業と食糧の歴史」、「世界の農民と農業」、「世界の農業景観」を展示テーマとする。




2.現況
 上々のオープニング効果、初年度目標

 40万人を上回る46万人が来場

 2002年4月18日付けの大分合同新聞によると、同公園に置ける3月末までの入場者数は45万4,479人で、目標の40万人を上回っている。特徴として、約25%が幼児・保育園児だという。
 満足度については、大分県農政企画課が行ったアンケート(回答287人)結果によるとは、「満足」+「やや満足」が65%、さらに再来園希望でも「また来たい」が約7割を占めるほどの人気を博している。
 初年度の事業収入は3億7千万円の見込みで、県では開園5年以降の入場者数が25万人で安定し、約2億4千万円の収入があると試算している。



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