10.サクセスストーリーのために

 一通り回ってみて、同社が説明するように、まだ発展途上、熟成中との現状認識が妥当であることが理解できた。建物の造り込みがしっかりしているため、江戸の町にワープした気分にはなれるとは思う。しかし、さっと見て回るには広くて時間がかかるが、じっくり遊びたいというニーズには物足りなさを与えてしまうだろう。
 施設のテーマである「マルチメディアを活用し、日本の文化を見つめ、未来を育む」は、果たして来場客には体現できているのだろうか。画像や音声を使った展示は確かに「マルチメディア」であり、それなりに最先端技術を活用しようとした気持ちはわかる。しかし、大上段に「マルチメディア」を標榜しても、内容が追いついていないというのが実感である。特に有料とする展示館を企画・制作した出資各社は、ビジネスショーや見本市において大規模のスペースを駆使した賑やかなイベント展開に“慣れている”大企業ばかりである。博覧会等のパビリオンの経験も豊富であろう。そうしたキャリアはどこに行ったのか。世界を牽引するマルチメディアやIT関連の技術力を見せつけるくらいの内容であってほしい。少なくとも来館者に驚きと感動を与えるような、本格性を持たせて欲しい。正直、現状は“所有するデータの二次活用をうまくやった”、“だけどコミュニケーションは子供だまし”(騙されはしないだろうが)に近い。
 その原因は、「江戸」に対する認識不足からくるイマジネーションの欠乏である。“ワープした”環境で、企画時に定義した江戸=日本特有の文化が成熟した時代性の解釈は、どこで体現できるのだろうか。ほとんどが、江戸=時代劇の再現→エンターテイメント=“らしき風景”の再現に他ならない。映画のロケに使う環境は、事業者の都合である。来場者の感動は、本当の江戸文化の追体験に生まれるはずで、その本格性なしに施設の魅力が長続きするとはとうてい思えない。規模は小さくても、「深川江戸資料館」では、江戸を再発見した喜びを感じられる。それは、“らしさ”よりも“そのもの”を追求するプレゼンテーターの哲学があるからだ。
 準備不足でのオープンだった事情は理解できるが、アトラクションのリニューアルは3年に1度、4分の1ずつ変えていく予定。ならばまだまだ魅力付けの余地が残されているだろう。ぜひとも、各社の奮起を望みたい。
 なお、運営サイドにとっても、見学レポート中にもあるが、

(1)ウェブサイトの効果的活用
(2)時代環境演出の徹底
(3)土産品・飲食店の改善
を希望したい。
(編集部 池上)

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