■はじめに

 いま、自動車販売の最前線では、これまでの足で稼ぐ「飛びこみ訪問」に代表される、営業マン個々としての活動とその結果を重視するスタイルから、確実な見込み客を発掘または獲得して、店舗空間を舞台にお客に親しまれるコミュニケーションを図ろうとするチームワーク主体の来店対応型活動への脱皮が進んでいます。
 それは、1)少子化・共稼ぎの定着で昼間在宅が減少、2)自宅等の個人空間への他人の訪問に寛容でないプライベート意識の高まり、3)大都市等での生活時間の深夜シフト、等のような社会環境の顕著な変化を背景とします。つまり、日本人の生活意識とライフスタイルが変われば、それに対応したセールス・プログラムに更新しなければ激しい競争に生き残れないとする危機認識が、メーカー、インポーターそして販売会社を"売りの再構築"に走らせているのです。
 また、業界的にいえば、1)自動車販売業界では人の移動(特に営業スタッフが激しく定着率が低い、2)長期に及ぶ不況による生活防衛意識からマイカーの買い換え期間が伸びている、3)現在の市場規模からして、従来のままで販売チャネルを維持するのは難しい等の要因もあるのです。

 革新にいち早く取り組んだのが、最大手のトヨタ自動車です。同社系列の「オート」店の「ネッツ店」へのリニューアル以降、販売店空間と販売の仕組みのリ・モデリングに積極的に取り組み、現代の市場環境に対応した自動車販売店づくりを進めています。点検・修理(業界ではサービスと呼んでいます)を充実させて、販売店にお客が訪問するチャンスを拡大、さらに新車発表会にこだわらず"自動車販売店らしくない"ようなイベントも積極的に開催して店舗への呼び込みを図り、実際に来店したお客には手厚いホスピタリティを空間とコミュニケーション両面から体験してもらい、いわゆる「顧客満足」を高めた上でのお店との絆を強める「来店営業」の定着です。こうした店舗では、空間はCIで統一され、お客はショールームでは展示車を見ていても営業スタッフがしつこくまとわりつくようなこともなく、リラックスしながら時を過ごせます。さらに清掃が行き届いた修理工場では、そこでの車検整備等の作業状況をオーナーが見られるようガラス張りになっています。

 こうした「来店営業」を核とする自動車販売店の空間再生は、いまや国産車・輸入車を問わずほとんどのメーカーやインポーターが認識しており、リニューアルを活発化させています。もちろん、ブランドの評価、品揃え(取り扱い車種)、資本関係等によって、"来店を中核化する"公式は共通していても、表現は異なっているのが現状です。その結果、これまで"聖域"だったチャネルについても、変革が及んでいます。

 チャネルの変化といえば、バブル時代の「増加」とその後の不況期の「削減」に代表されるように、規模についての変動が専らでした。しかし、長期化する低成長時代に、現在の「チャネル」という縦割りの流通体制を今後も堅持するのは非常に厳しい状況になっています。全店がパイを分け合うような余裕はすでに市場には残っていません。それに、お客にとっても、車種毎に違う店舗への移動を余儀なくされる現状は、とうてい"お客様本位"とは別次元の状態になっているのです。
 こうして、販売店をただ整理・淘汰して絶対量を調整するリストラ的な再編を超えて、同じメーカーの別チャネルがひとつに集まって空間を共有する「集合」、資本は共通するもブランドが異なる店舗が一体化する「複合」等の動きが活発化しています。
 そして、差別化のためのブランド訴求が特に活発な輸入車業界は、「複合」はもちろんですが「専売店」による訴求を重視する傾向が見られます。

 本誌では、このように多種多様なコンセプトによって再生が進む各社の自動車販売店を、基本となる「来店型」に加え、「複合」と「ブランド訴求」の3つのキーワードで整理。
 お店という営業舞台となる空間と、そこで実践されている売りの仕組みについて、店長のマネジメントを含めてその最新の動向をレポートします。また、こうした「集合」「複合」効果は、販売店の経営効率化のためのひとつの事象に過ぎないのか、お客に立場、志向をふまえたまさにCRMの実践なのか、運営上課題はないのか等についても検証・報告します。

第一部 来店型
■ネッツトヨタ熊本・ネットワールド川尻店
■埼玉日産自動車・大宮桜木店
■マツダアンフィニ横浜・港北ニュータウン店
■東京スバル町田営業所

第2部 複合
■カラフルタウン岐阜 レインボーモール
■神奈川トヨタ・マイクス本社店
■トヨタZAP
■日産カレスト座間
■Hondaの広場 ドリームピア立川
■プレミアムオートモービル千葉 フォード成田

第3部 ブランド訴求
■ヤナセ千葉 船橋支店
■フォルクスワーゲン東京 足立店
■アウディ東京 世田谷
■シトロエンジャポン 有明ショウルーム
■ヤナセ港北支店 オペル港北ニュータウン
■ヒュンダイモータージャパン東京営業所

その他特集 メーカーショールーム
■日産ギャラリー
■ヤマハ発動機 EX’REALM

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