加悦SL広場 レポート(2)

○ボランティアとのネットワーク

 「加悦SL広場」は、車両をコレクションして静態保存するに止まらず、加悦鉄道で実際に活躍した車両の動態復元を行い、体験乗車の機会を提供している。そのため、園内には"修復工房"が用意されており、運が良ければ作業の様子が見学できる。廃止となって人々の生活からは遠くなってしまったが、この鉄道が地域を代表する資源であることに変わりはない。そんな意気込みと資源認識が具体化した活動である。ちなみにこの活動はボランティア団体の「加悦鐵道保存会」が全面的にサポートしている。同会は鐵道ファンの集まりなのだろうが、「加悦の暮らしを古くから暖かく見守ってきた加悦鉄道のある風景を再現するべく、活動を行って行きたい」というコンセプトは、他の好事家の団体とは違う。やはり加悦町という地域あっての活動のようである。

 加悦SL広場の公式サイトをご覧頂ければ、機能構成や展示車両等が詳細に紹介されており、ぜひとも参照願いたい。

○道の駅に隣接する立地

 国道176号沿い、「道の駅 シルクのまち かや」が一体的に整備されている。もともと、この道の駅用地がニッケル鉱山であり、露天掘りによって掘削され、加悦鉄道〜国鉄を経由して輸送されていた。ニッケルの掘削は終戦と共に終了、現在は緑に覆われた山腹をじっくり見ると、当時の露天掘りの遺構らしき痕跡を見つけることができる。道の駅から山側は、いくつかの飲食店やハーブ園や温浴施設のある「リフレかやの里」等、リゾートエリアとなっている。

 「加悦SL広場」はドライバーがすぐにアイキャッチできる。そのシンボルは、国道側に沿ってレイアウトされた駐車場に展示された、京都市電N5号のクラシックなエキステリアである。ここに来る前は、宝塚ファミリーランドに展示されていたもので、例の“復元工房”で丁寧に修復された後、SL広場のランドマークでありガイドサインとしてその存在をアピールしている。筆者が同型の車両を見るのは、動態保存されている明治村に続き二回目の体験であった。(観光地ではこのデザインを模したレトロバスが走り始めている例もある)。

 もうひとつ、来場した者をときめかせる装置として、駐車場のSL広場側に並んだ「カフェトレイン蒸気屋」がある。その通り列車食堂だ。使用している車両は、昭和47年まで3年間稼働していた車両で、これに休憩車で「加悦鐵道保存会」のサロンとしても使われる元南海電鉄の電車が連結されて並んでいる。「カフェトレイン蒸気屋」の自慢のメニューは、アルデンテ(ちょうどよいゆで加減)で楽しむパスタと全粒紛を使ったクロワッサンサンドで、これが好評だという。残念ながら取材日はちょうど休業日にあたり、スタッフのランチはコンビニ弁当になってしまった。

 その隣が「鉱山駅」である。機能的には休憩所&ミュージアムショップである。焼きたてパンの店「ブロートホルン」、鉄道関連グッズをはじめ地元特産品、ファーストフードを販売する「ショップ蒸気屋」で構成している。

○入場は切符を購入して改札を通る演出

 ネーミングにもなっている蒸気機関車(SL)にお目にかかるには、旧加悦駅をイメージして復元した駅舎にある広場入口で入場料を払い(中学生以上500円、小学生300円、小学生未満無料と好意的)、入場しなければならない。

 実は「日本の駅舎100選」で紹介された旧加悦駅だが、当時同駅のあった付近に「旧加悦鉄道加悦駅舎」として移築、加悦町の手で平成11〜13年に観光案内所「歴史街道iセンター」及び加悦鉄道資料館としてリニューアルされ、今も観光拠点として利用されている。その建物が駅舎であることは、建物前に保存された腕式式信号機が示している。SL広場の駅舎は、この旧加悦駅舎を見本に建てられたレプリカというわけだ。内部の待合室には、当時の時刻表、ランプ、時計、ベンチなどが置かれ、当時の雰囲気を再現している。2階には展示室があり、実際に使われていた通券函、ランプ式合図灯、転轍器標識、信号反応器等が展示されているが、これはファンやマニア向けである。

 入場券を購入して改札を通ると、いよいよ園内の様子が視界に入ってくる。改札はそのままホームにつながっており、まさに駅の風情そのものである。ホームには、前述の2号蒸気機関車と1261型蒸気機関車が停車して、まさに発車を待っているという情景展示である。そして、ここは加悦鉄道のSL広場で、京都の梅小路蒸気機関車保存館ではない。これから列車は加悦鉄道を走る。だから、ホームも加悦鉄道の規模に応じ、ささやかなスペースだ。ベンチや街灯はまさにレトロだが、ここは雨天時の来場者フォローと展示車両の保護のために、フィクションでも屋根を設けた方がよさそうだ。カヤ興産は、その必要性は認めた上で、園内の景観とのバランスあるいは設置そのもののコスト、つまり見た目の楽しさと保存の耐久性向上をどのようにバランスさせるかについては簡単に結論を出せないとの認識を示している。



機関庫では復元整備作業が行われていた

京都市電N5号


「カフェトレイン蒸気屋」は列車食堂


SL広場への改札口


「旧加悦駅」の駅舎を復元、資料館として利用されている


改札を抜けると路線規模相応のホームへ


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