■ インプレッション

 実際に資料館を訪れてみての印象をご報告する。
 外観だが、学園の正面アプローチにあたるゲート付近に、屋外展示として並んでいる新幹線の先頭車両(実物大の模型)がアイキャッチとなっている以外、全く特徴のない、学校らしいというか、地味な建築である。
 屋外展示には、新幹線車両のほかに、「腕木信号機」「高所大時計」「在来線特急電車用台車」「パンタグラフ」が並べられている。例の丸目の新幹線先頭車両を除いて、これだけでも非常にマニアックというか、実直という印象を持つこと間違いなしである。
 この展示は正直に言うと“無造作に並べられている”。クリンネスは屋外で屋根もないことからほとんど気にされていない様子で、正直、なんだかスクラップヤードのような寂しさを感じてしまう。
 ここはファーストアプローチだから、ぜひ、賑やかしの演出を導入すべきだろう。規模が縮小したとはいえ、少なくとも現在でも「鉄道の町」で、「鉄道の文化」が生きているという、資料館内に息づいている運営者の熱意を屋外展示にも反映してもらいたい。




新津鉄道資料館の外観



駐車場の脇に新幹線の先頭を展示

 建物自体は学校そのものである。ここが鉄道資料館であることは、入口付近に立てられた「にいつ」駅表示版によって認知される。チケットは、自動販売機で購入する。
 館内、展示スペースとも、内装に手を入れた形跡は全く見えない。学校の、教室がそのまま使われているといえばおわかりであろう(ゆえに展示物の大きさに制限があるのがジレンマでもあるという)。その印象は、ライトアップ演出がほとんど見られず、無機的な、お馴染みの蛍光灯による直接照明によってさらに加速する。
 とはいえ、廊下部分は壁面を使って写真パネルを中心とした展示、部屋の部分はパーテーションでコーナーを作って実物を展示するなど、環境をうまく工夫している様子も認められた。
 展示内容だが、正直に感想を述べると、鉄道ファンを自負している筆者自身でも知らなかった内容のオンパレードであった。
 特に興味を持ったのが、「鉄道はどう作られ、どうメンテナンスされているのか」、そして九州出身のせいか、豪雪地帯・新潟における「鉄道は雪とどうつき合っているのか」、それらについて技術や理論、人智に強い関心を持った。これらの内容はちゃんと理解すると、実は土木工学や機械工学の知識も吸収することになる。そうした知識の交換が鉄道を通じて叶うのに驚きもした。
 さらに、これは鉄道ファンでなくても印象に残るのが、例えばレールや枕木、車両のブレーキシステムや車輪、屋根の上のパンタグラフといった、日頃一般の目に触れない部分の展示と説明である。「こんなに電車の車輪ってでかいの?」とか「へえ、パンタグラフって結構太くて簡単な仕組みで上下するんだ」とか「連結ってけっこうテクニックがいるのね」等と、同行した女性スタッフも感心しきりであった。もちろん、その記憶や感動がどれだけ前頭葉に保存されているかは疑問だが、少なくともその場所でその日・その時を感動と過ごせたのは、集客施設として誉められるべきである。

 オタク度を問わず、こと盛り上がるといえば、廊下部分のガラスケース内にあった駅弁パッケージのコレクションである。新潟県を問わず、「峠の釜飯」(横川)など、全国の有名な?駅弁が対象になっている。

 さて、同館は地元集客を基本とする。展示内容において、鉄道産業技術は普遍的なテーマだが、地域性を持たせるための演出が、地域の風景や歴史を偲ばせる写真パネル展示と、「なつかしの赤谷線」「地方の鉄道」コーナーである。最近の“廃線跡探訪ブーム”を意識したわけではないという説明だが、郷土史的に見ても貴重と想定できる鉄道関連資料が多数収蔵されていた。
 昔、その路線を利用していたという人なら、写真とはまた別の感動、ノスタルジーに浸れるだろう。(大分交通国東線の利用経験者である筆者としては、同様の資料館が地元・大分にないことに非常な幻滅を感じる。香りの館やら農業公園やらワールドカップ用のサッカースタジアムって、郷土文化創造になるとは思えないのだけど。帰省理由にもならない。新津市がうらやましい!)


「にいつ」駅表示板



館内の様子



「鉄道友の会」コーナー



駅弁のパッケージが展示されている



「なつかしの赤谷線コーナー」

スイッチを入れると・・・        →パンタグラフが・・・        →すごい音を立てて伸び上がる
  


■今後の運営のために

 滞在の間、とても実直に鉄道を直視して、その役割と産業としての特性を、技術を中心に歴史にも配慮して、手作りの暖かみを感じる造作とわかりやすい説明で、充分に楽しめた。しかし、人間は忘れやすいもの。せっかく得た知識を記録しておくメディアが欲しくなる。
 その意味で、公式ガイドブックの発刊を急ぐべきであろう。現状、退館後に残るのは、簡単なパンフレットと、ウェブサイトでのダイジェストだけである。これでは寂しい。展示物のメンテナンスと同様に、ボランティアを集めた「ガイドブック編集チーム」に結成して、制作を進めればどうだろうか。

 展示コンセプトの、「古き良きものを今に伝える」哲学は、今後も頑固に守って欲しい。運転シミュレーションゲームは必要ない。むしろ、我が国における唯一の鉄道産業の専門図書&資料館として、行政施設として予算とマンパワーがあるにしろ、なんとか、その方向性だけは意固地になって、発展に努めてもらいたい。読者の皆さんの応援をお願いします!

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